さよなら、恋する私 「……よし、これでいい」 鏡の中にいるのは、昨日までの私じゃない。耳が出るくらい短く刈り込まれた襟足。ワックスで無造作に散らした前髪。美容院で「男子みたいにしてください!」って叫んだときは、美容師さんも「えっ?」って顔をしてたけど。でも、仕上がりは完璧。 中1の私、あゆみは、ずっとソラに恋をしていた。ソラという男子に片想いをしている。しかし彼に自分は叶うわけないだろうといつも考えている。可愛くてキラキラした女子たちの中にいるソラを見て、気づいちゃったんだ。私があの中に混じって彼に振り向いてもらうなんて、一生無理だって。 「なら、いっそ……」 あゆみは恋を諦めて前から憧れていた?男子のようになるという夢があった。憧れていた「カッコいい男子」そのものになって、この恋を捨ててやる。 美容院に行き、男性の美容師に男子並みに髪切ってください!!!という。男性は少し驚いたが、彼女のいうとおりに髪をきり、見事男子のような髪型になることに成功した。制服はお母さんにズボンを買ってもらい、次の日登校する。性格も男子のようにするため、できる限り女子と話すのは控えた(重要な時以外)。低めの声を意識して、視線は真っ直ぐ。「あゆみ!? どうしたのその格好!」驚く友達の声を背中で聞き流して、私は「男子」として振る舞い続けた。 トイレでのハプニングと魔法の言葉 しかし、すぐに問題が起きる。それは…着替えにくい! 4時間目が終わった瞬間、最大の壁が立ちはだかる。「よし、体育だ。着替えるぞー」 ……忘れてた。体育の着替え。更衣室は女子で集まり前まではフツーに着替えていたがもう男装?したからはもうできないと感じ、トイレで着替えることにした。 今さら女子の更衣室に入って、この格好でブラウスを脱ぐなんて、想像しただけで顔が火を吹くほど恥ずかしい。 私はジャージを抱えて、廊下の端にあるトイレに駆け込んだ。個室に入り、鍵をかける。狭い空間で必死に腕を動かし、ズボンを履き替え、シャツを脱ぎ……。「っ……あつい」 (あーっ、もう! 狭い! 腕が壁に当たるし、髪型セットしたばっかりなのに! ああもう、ソラのバカ! なんであんたがあんなにカッコいいから、私がこんな苦労しなきゃいけないのよ! 早く着替えないと遅刻する……あ、袖がボタンに引っかかった! 取れない、取れないよーっ!!) 慣れない早着替えに息を切らしながら、なんとかジャージ姿になった。「ふぅ、これで大丈夫。誰も見てない」 自分に言い聞かせて、個室のドアを勢いよく開けた。その瞬間。「うわっ!?」 目の前にいた人物と、鼻先がぶつかりそうになる。そこに立っていたのは、あゆみが一番会いたくない、そして世界で一番大好きな相手。……ソラだった。「……あれ。その服、どうしたの? なんで女子の制服じゃなくて、ズボン履いてんの?」 (やばいやばいやばい!! 答えられない! 何も言葉が出てこない!! 近すぎるよ!!) 心の中は私だけど、口に出す時だけ一人称を「僕」にすればいいんじゃない!?!と思い、震える声を絞り出した。「……別に。こっちの方が、落ち着く気がして。……これからは、僕って呼んで」「え? 僕……?」 私はそのまま、ソラの横をすり抜け、全速力で逃走した。 休日、まさかの遭遇 休日、あゆみは男子の私服(パーカー)を買いに行く。(私、絶対に強くなってやるんだから!) 黒のパーカーを試着して買って、気に入ったからそのまま着て帰ることにした。(これなら、もう誰も私を女子だなんて思わない。あゆみ、これでいいんだよね) See more