営業停止中のいかがわしいお店と、非常階段の罠(完全修復版) 夏の夜。私がアルバイトをしている、隣のビルのチェーンの飲食店はすでに閉店の片付けを終えていた。 裏口のゴミ出しに出たとき、すぐ隣にある古びた雑居ビルの非常階段が目に入った。そのビルは、かつて大人の男性向けのエキセントリックなサービスを提供していた、いわゆる「営業停止中のいわくつき店舗」が入っている場所だった。 数ヶ月前に諸事情で営業停止(事実上の閉鎖)となったものの、非常階段の距離が異常に近く、隣の飲食店の非常階段から「ひょいっ」と飛び移れそうなほど隙間が狭かったのだ。 「ねえ、千秋。あの隣のビル、噂のいかがわしいお店の非常階段、ここからなら簡単に飛び移れそうじゃない?」 「ちょっと、沙織、何バカなこと言ってるのよ。危ないからやめときなよ……」 大学時代の友人同士で、今は同じチェーンの飲食店でバイトをしている沙織が、面白半分にフェンスを乗り越えようとする。私はスウェット生地の着心地の良いワンピース姿のまま、「ちょっと、待ってってば!」と慌てて彼女の後を追った。 ひょい、と身軽に飛び移った沙織に続いて私も隣のビルの非常階段へ着地すると、なぜかそこだけ店舗の勝手口のドアがガタガタと半開きになっていた。 「ほら、開いてるじゃん! ちょっと中を覗くだけ、すぐ戻るからさ!」 好奇心に負けた私たちは、薄暗い勝手口からその「営業停止中のお店」へと踏み入れた。 なぜか店内は電気だけが生きており、天井の蛍光灯や壁面の間接照明が煌々と明るく光を放っている。懐中電灯を取り出す必要すらなかったが、その明るさがかえって不気味に周囲の生々しい現実を浮かび上がらせていた。 ツンと鼻をつく強い芳香剤と消毒液が混ざったにおいが、むせ返るような湿気とともに迎えてくれる。店内はセンスのよくないクリムゾンやどぎついピンクの内装で統一されており、壁のあちこちにはかつて飾られていたであろう宣伝写真の跡が剥がされた痕跡として生々しく残っていた。 気味の悪いカウンターを抜けると、明るく照り映える狭い廊下の両側に個室への扉がずらりと並んでいる。しかし、どれも固く施錠されている。そんな中、なぜか奥の一箇所だけ、ドアが半開きになってぽっかりと中を覗かせていた。私たちは吸い寄せられるように、その唯一空いている部屋を目指して進んだ。 部屋の中はベッドや細かな小物はすでにすべて撤去されていたが、奥にはタイル張りの浴室がそのまま残されていた。壁沿いには浴槽が造り付けられており、窓のない閉ざされた空間には異様な熱気がこもっている。 浴槽は、いかにも特殊な設備を期待させるところだったが、意外にもごく普通の長方形の形をしていた。 「うわ……なんだか空気が生々しいね。廃墟っていうか、まだ生きてるみたいな匂いがする……。ねぇ千秋、せっかくだし、ここで営業停止中の記念に自撮りでもしよっか!」 「もー、こんな怪しいところで何やってるのよ。……って、ほら、明るいから余計に恥ずかしいじゃない、ちゃんとこっち寄りなよ」 私たちは物珍しさから、なぜかその浴槽の中に直接入り込んで並んで座り、スマホを掲げた。 「はい、チーズ……って、ちょっと待って、壁のところに何の変哲もない防水型のスイッチがあるよ?」 「ん? どれどれ……」 沙織が覗き込んだその瞬間、彼女の手がその防水スイッチにふと触れ、カチリと押し込んでしまった。 Mehr sehen